ここ何年か耳にしていなかった、
「着付けに何分かかりますか?」
という質問。
着物を着る時間に、どれくらいかかるか。
この問いは、もうずいぶん昔から着物の素人玄人を判断する材料のようになっています。
質問の意図は、察するところです。
しかし、令和の時代となった今では、アナクロな質問です。これは言い切って良いと思います。
そして、この質問に「◯◯分です。」
と回答する私が未だ居たとしたら、私は私が思う以上にナンセンスな講師です。
まず、前提として。
着物を着るという行為は、良くも悪くも、すでに得意技の範囲に入ってきている時代と感じています。昭和期の着物事情とはずいぶん様変わりして、和箪笥も嫁入り道具の着物も持たない昨今。「結婚する前に着付けを習いました。」なんて言う人は、ほぼいないのではないでしょうか。日本人だからといっても、着物の着装方法を知っている人は、今の時代、本当に少ないのです。
だからこそ。
初めて自分で着物を着た方でも、毎日着物生活をしている方でも、今まさにあなたの目の前に着物を着ている人がいたら、それは特技を得ようと努力している人であり、また、特技を極めている人です。
そんな着物好きに、
「あなた、何分で着物着られるの?」
と問うのは、ぜひお控えいただきたいと思います。
ただ一言、
「素敵ですね。」とお声かけいただきたい。
久々にこの質問を投げかけられた私の場合、
「着物を素早く着ることに美徳を感じていないので、時間は分からないです。じっくり生地の動きを見ながら着ています。」
とお答えしました。講師の器量を押し測るというところが本音としておありでしょうが、私の本音としては、自装にかかった時間を問うこと自体に意味がないのです。
重ねていうと、着物と着装時間の間には様々な要因が発生するので、一概にはいえないということもあります。
着装しやすい生地、扱いにくい生地
着慣れている着物、あまり袖を通していない着物
着姿に頓着しない時、美しい着姿を追求する時
時間が10分しかない時、時を忘れて何度も着直してみる時
体調の良し悪しも相まって、実に様々な要因が絡み合いつつ、着装時間は決まります。
そんなわけで。
短時間で自装する人が、偉い世界ではありません。
どんなに時間がかかっても、着物を着ることを諦めない人が有能です。
そして、例えば5分で着物を着た私がいたとして、質問したあなたのお眼鏡に叶う着姿かどうかは、また全く別の話なのです。
短い着付け時間を美徳とする概念は、呪いです。
そして、呪いはすでに解かれた時代です。
私の教室では、自分と向き合うように着付けと向き合って、着物をじっくり楽しんでいただきたいと考えています^^
自装で入学式に参加なさったのは、初級コースの生徒さん。
帯だけ結ばせていただきましたが、着物を着ることに臆さない人もまた、かっこいいですね。
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